時代は巡る。熱くならないから燃え尽きない、淡々と飄々と介護の仕事に就く若者に乾杯!
先日、老人ホームに入居中の母を訪ね、28歳になる従姉妹の息子がやってきました。
しばらくぶりに会う彼は、小さいころの面影を残したまま。
末っ子として、両親、そして祖父母にたっぷり愛情を注がれて育った彼。
幼い頃から争い事を好まず、競争には関心がなく、とにかくおっとり、まったり。
福祉系の大学を卒業し、重症心身障がい者施設で働いた後、今は、特別養護老人ホームに勤めているのだとか。
もう、福祉の仕事をして6年以上経ったと話していました。
夜勤もあって大変な仕事でしょう
高齢者の介護施設での仕事の過酷さについては、ニュースで取りあげられることも多く、職員による「虐待」など、悲惨な事件も多く見聞きしています。
その場にいた親類のものは、
「大変でしょう!大丈夫?」と心配し、「若いのに、なかなかできないことだね・・。辛いことも多いでしょう」と彼を労い、
「年寄りは頑固だし、認知症の人もいて、本当に大変だよね・・・」と、それぞれの介護経験を重ねては、感慨深げに呟いていました。
熱くならなければ、燃え尽きることもない
そんな親戚の人々を前に、
「そうですね、確かに大変は大変ですね。一晩中、コールを鳴らす方もいるし、怒鳴ったり、叫ぶ方も。徘徊に付き合ったり、排泄の介助に追われたり・・。」
「そうでしょ、そうでしょ」とばかりに深く頷く一同。
「辞めちゃう人も多いんじゃない?」との問いかけに、
「辞めちゃう人も多いし、うつになって仕事に出て来られなくなったり・・。いつも人が足りなくて、そういう意味ではキツいですね」と彼。
「ねえ、〇〇くんも、燃え尽きたりしないでよ」と心配そうな声も聞こえてきました。
すると、
「ボクはそこまで熱くならないから・・。熱くならないから多分、燃え尽きることはないと思います」と言い、小さく笑う彼。
「ああ、そっか!熱くならなければ、燃え尽きることもないのか!そっか、そっか!」
妙に納得する声が上がり、その場に安堵の雰囲気が流れました。
親世代の価値観
その場にいたのは、彼の親世代。
高度経済成長の恩恵を受けてきた世代の人々です。
「頑張らなくてどうする」
「仕事に情熱を傾けることこそが大切」
「熱くなれることを見つけるのが一番」
「人よりも一歩でも先へ」
そんな価値観のなかで闘ってきた50代、60代。
そんな世代の私たちが、彼の話しを聞いて、
「肩の力を抜いて、頑張り過ぎないって、大事なことだねー」と口々に言い合っていました。
もしも自分が現役バリバリの頃に、彼のような若者に出会ったら、
「覇気がない」
「ヤル気が見えない」
「つかみどころがない」
「男としてどうなの?」
「なんか頼りない」
「何を考えているかわからない」
と戸惑ったことでしょう。
時代は巡る
ところが 、少子高齢社会を迎え、働き手が不足するなか、今やさまざまなストレスが蔓延して働く人々のメンタルヘルスに黄色信号が灯っています。
「頑張ることより肩の力を抜くこと」
「情熱を傾けることより、淡々と飄々と仕事をやり抜くこと」
「熱く燃えることより、どこか冷めた目を持ち続けること」
その大切さを誰もが認めざるを得ない世の中になりました。
たかが仕事
仕事にどう向き合うかは、人それぞれの価値観や生き方が反映され、多様なあり方が認められるべきだと思います。
職種によって、職場の状況によっても、異なってくるでしょう。
ただ、仕事は仕事。自分の身体や心まで傷つけながら続けるものではないはずです。
「たかが仕事」そんな冷めた目を持ち続けることも大切なように思います。
飄々と淡々と福祉の世界に身を置く彼。
介護福祉士や社会福祉士の資格をとり、ケアマネジャーの試験にも合格したのだとか。
ただそれも、「この世界にいる限りは必要な資格だし、勉強は楽しいから」と。
キャリアアップをガツガツ目指すわけでもなく、「必要だし楽しいから」とサラリと言う彼。
力を込めることよりも、力を抜くことで強さと安定を身に着けているようです。
きっと彼は、今後も彼のペースを崩さず、淡々とこの仕事を続けていくでしょう。
彼らしく働き続けること、それを祈らずにはいられません。
目を通していただきありがとうございました。
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