還暦からの再起動

お料理レシピ、時々、遠距離介護や病気との付き合いなども。人生の下りを楽しむ還暦女子の日常です。

スタッフの切ない小さな嘘と甘酸っぱい思い出

スタッフといっても、友人の部下のお話しです。

高齢者施設で管理者を務める友人は、お茶をしながら、あるスタッフのことを話し始めました。

 

そのスタッフは、昨年高校卒業し、福祉の世界に飛び込んできました。

若さゆえに、今はまだ気が効かない。

だけど、黙々と仕事に取り組み、利用者さんには優しく接する期待のホープです。

 

その彼女、施設のクリスマス会の時に、アイシングクッキーを持参したそうです。

色とりどりのクッキー、あしらわれた文字もまるで売りもののように美しく、「これ、すごい!」と歓声が上がったようです。

「これ、〇〇さんの手作り?」そんな問いかけに、はにかむようにこっくり頷いた彼女。

「ええっ!こんな特技があったんやね~。若い人はやっぱり凄いね・・」

年配のスタッフは、娘をみるように目を細めていたそうです。

 

「〇〇さん、あんなクッキー、焼けるんやったら、今度は、利用者さんと一緒に作ってみたらどうかな。クッキーの型抜きなら、一緒にできると思うよ。そうや!バレンタインデーの日にやってみたらいいんじゃない?」

そんな友人の問いかけに、これまた頷いた彼女。

その彼女、バレンタインデー当日は、通常の業務から外れ、黙々とキッチンにこもり、何やら作業を続けていたものの、いつまでたっても利用者さんと一緒に作業するそぶりはなく、タイムアウト

結局、「今日、家に帰って焼いてきます」とその日は帰っていったそうです。

そして翌日、まるで売りもののような見事なクッキーを抱えて彼女は出勤してきました。

 

「自分で焼いたんじゃないんだ・・・ウソなんだ・・」その時友人はそう確信したそうです。

その若いスタッフ、兄も姉も、いわゆる「優秀」。

自分は、出来の悪い末っ子で、小さいころから劣等感の固まりだったと友人に打ち明けたことがあったそう。

「ついつい、背のびしちゃったんやろなぁ・・」そう呟いていました。

ところが、そんな友人の思いをよそに、他のスタッフは、

「あれから家に帰って焼いてきたん?やっぱり、慣れてる道具があると違うんだね」と気づかない様子。

職場では、すっかり「お菓子づくりはプロ級の〇〇さん」というイメージが定着したようです。

本人も、「自分で作った」といい切る手前、「買ってきたんと違う?無理せんでもいいんよ」と言葉もかけられず・・。

 

そんな時に、またまたやってきたホワイトデー。

今度は、「チーズケーキを焼いてきました」とニコニコ顔で彼女は出勤。

見れば、もう、これは買ってきたとしか言いようのない完成度。

わずかな給料から無理をして皆の分を調達したのかと思うと、かわいそうでたまらなくなるとか。

 

「皆に褒められたい、認められたい」

「喜んでもらいたい、喜ばせたい」

そんな気持ちからついた小さな嘘が、次第に積み重なりつつあるのだとか。

 

何だか本当に切ないお話し。

友人とおしゃべりしながら、遠い昔がフトよみがえってきました。

「これ、編んでくれたの?」

差し出したマフラーを前に、満面の笑みで尋ねる彼。

「えっ?まぁね・・。上手じゃないけど」

咄嗟についた嘘でした。

少しでもよくみられたい。手作りだと期待しているその気持ちを裏切りたくない。

そんな気持ちから咄嗟についてしまった嘘。

結局、お付き合いは長続きしませんでした。

 

さてさて、今後どう友人は彼女に接していくのでしょう。

福祉の道を志した彼女が、こんなつまらないことで躓かないように、こんな切ないことで職場を去ることがないようにと、心から願うばかりです。

 

 

目を通していただきありがとうございました。

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