還暦からの再起動

お料理レシピ、時々、遠距離介護や病気との付き合いなども。人生の下りを楽しむ還暦女子の日常です。

高齢の父よ、あなたはそこにいるの?納得と寂しさ、覚悟が入り交じった秋の日の午後。

ケアマネの友人と車中で

昨日のこと。

友人4人と一緒にランチ。

その帰りに、ケアマネとして働く一人の友人を車で送っていくことになりました。

二人きりになった車中で、

「それで、実家のご両親はどうなん?」

そう問いかけてくれた彼女。

「それがね・・・」と最近勃発した姉と父との間の「事件」について彼女に聞いてもらうことになりました。

 

 あれほど自宅の売却については念を押し、父親は自ら「売るなら今だな」と決断したにもかかわらず、父は今になって姉が勝手に売ってしまったと公言して憚らないこと

姉は、仕事の傍ら、大変な労力を注ぎこみ、姉の家族を動員してゴミ屋敷を片付けたというのに、その苦労など全く忖度せず、姉を悪者扱いする父親に姉の怒りが爆発し、現在、姉は父と距離を取っていること

 

そのような現状について、あれこれと話す私。

彼女は、さすがにプロ。

頷き、所どころで「そうなんや・・・」と合いの手をはさみつつ、「それで?」と私の話しを促します。

ひととおり話し終えた後、今度は私が友人に尋ねてみました。

「ねぇ、どう思う?」

その時、友人は、こう応えました。

 

父の生きている世界 

認知症の人は、「今」しかないから。「今」「今」「今」で生きてるからなぁ。

前に自分がどう考えたか、何を思ったかのかなんて、関係ないねん。

30分の世界しかないのよ。

お父さんがそこまで酷い認知症だとは思わないけど、数か月前の過去のことはきっと覚えてないんだと思うわ。

今、売ったことを後悔してる。

今、お母さんのためにあの家を残しておくべきだったと思う。

今、悔しい。

今、アタマに来る。

で、なんでこないなことになったんかと思ったら、そうや〇子や。

〇子が売っぱらっちまったんだ・・とこうなる。

そうじゃないでしょ!と説明されたって、前のことは覚えてない。

「そうじゃない、そうじゃない」と言われれば言われるだけ、自分が非難されているように思っちゃう。

自分は被害者なんだ。

そう思うと怒りが込み上げる。

で、怒る。怒鳴る。

そうすると、周りは引くから、余計に情けなくなって悪循環。

そんな感じなんかな・・、と彼女。

彼女の話す父の心象風景。それがクッキリと伝わってくるようで、胸に迫るものがあり、

「なるほど・・・そっか」と私。

そうか、お父さんは、30分の世界で生きているのか・・・。

自分を納得させるように、何度も頷く私。

しばらくの沈黙が流れました。

 

しんどくない?

その沈黙を破るように、口を開いたのは彼女。

「お父さんのその時々の気持ちに振りまわされよったら、しんどくないの?」

「姉は確かにしんどいと思う。私は傍にいないからいいけどね。姉はかなりギリギリみたい」

「そやろうな・・。」

「1か月は父親のところへ行かないって言ってたんだけど、施設の方から電話があればすぐに駆けつけざるを得ないし・・。行けばしんどいし、行かなくても心配だしね」

「そりゃ、そうやわなぁ。身元引受人だし放っておくわけにもいかんしなぁ」

 「そうなの、そうなのよ。いつ施設から連絡があるかとちょっとビクビクしてるみたい」

「そうやろな・・・」

 

割り切って淡々と・・

そんなことを話していたら、彼女の自宅近くに。

彼女は、こう話して車から降りていきました。

「どう考えても、面倒みなしゃーない。やらなしゃーない。そやったら、いちいち振りまわされて腹立てたりするものしんどいやん。もう、そういうものやと割り切って、淡々と付き合った方が自分も楽になるのと違うかなぁ?」

「うん、確かにそうだね。ありがとう。考えてみるわ」

そんな会話を交わして、彼女を見送りました。

 

気持ちを受け止め、上手にスルーするしかないのか

彼女を降ろしてから、しばらくは、父のことを考えて過ごしました。

父が周囲を困らせるのは、何も年老いてから始まったことではなく、若い頃から。

年を重ねるに従って、

・都合の悪いことは、人のせいにする

・他人を、自分を助ける道具のように扱う

・自分より立場の弱い人を怒鳴りつける

・自分の思い通りに人を動かそうとする

こんな傾向がさらに強まっているように思います。

「年を取ると、その人らしさがいっそう、際立ってくる」と言われるように。

姉も私も、げんなり。

ただ、もう父は、 彼女が言うように、

「あの時はああだったよね、だから今、こうなんだよ」という筋道が通らない世界に生きているとしたら、説明、説得しても双方が疲れるだけ。

周囲ができること、それは、感情を受け止めることだけ。

「ああ、お父さん、お母さんにあの家を残してあげたかったんだね」

「そっか、お父さん、とっても残念な気持ちなんだね」

と気持ちを受け止め、認識を修正しようとしない。

上手にスルーする。

それしかないのかも知れません。

 

両親の老いを理解することの難しさを痛感

ついつい、

「親だからといって、年寄りだからといって、何でも許されるとは思えない」といきりたってしまう私。

ただ、私たちと父の生きている世界が大きく違っているとしたら、正面から向き合ったところでお互いに消耗するだけ。

「おまえのせいで!」と言われたところで、いちいち反応しない度量が必要なのかも知れません。 

何があっても、淡々と。やるべきことをやるけれど、頑張って良い娘も演じない。

 

そうかそうか、父親はそんな世界に生きているのか。

納得と寂しさ、そして、ちょっとした覚悟が複雑に入り交じった秋の日の午後でした。 

 

目を通していただきありがとうございました。

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