還暦からの再起動

お料理レシピ、時々、遠距離介護や病気との付き合いなども。人生の下りを楽しむ還暦女子の日常です。

語り継がれる「映画館で農業一枚!」。笑いのツボを考える。

昨日のこと。

7~10歳ほど上の世代の友人3人とひょんなことから午後のお茶をすることに。

あれこれとたわいもないおしゃべりのなかで、ふと最近再開した映画館のことが話題になりました。

片田舎の当地にも、10年前までは映画館が二つあったそうですが、経営難から閉館。

ところがこのたび、映画館の再開を望む住民らの協力のもと、リニューアルオープンしたとのこと。

「いまどき、映画館なんて、やっていけるんやろか?」という率直な疑問から始まって、話題は映画館全盛時代の頃に遡っていきました。

 

映画館で「農業1枚」

「あのな、これは、人から聞いた話しやで、聞いた話しやねんけどな」と前置きをして、Aさんが話し始めました。

これは、もうずいぶん昔のことやけど、ある時な、野良仕事ばっかりしよったおばあちゃんが、生まれて初めて映画を観に行ったんやわ。

そんで、チケット買うために並んでてん。

ほしたらな、前に並んでたセーラー服の子が、チケット買う時に、「高校生 1枚」って言ったんよ。

そんでおばあちゃん、「農業1枚!」って、そりゃ、もう大きな声でゆうたらしいわ。

 

 

話し出したAさん自身、笑いが込み上げるのを懸命に堪えている様子。

「作り話し」だとわかってはいても、「農業1枚!」というくだりでは、私たち一同、大爆笑。

笑いが笑いを呼び、押えるのが難しい・・・。

そんな時に、またまたAさんが、「そんでこの話し、続きがあんねん」と話し始めました。

 

喫茶店で名を名乗る

映画が終わってな、喉も乾いたんやろなぁ

おばあちゃん、お隣の喫茶店に行ったんやて。

そしたらな、前に入った女の人が、お店に入る時に、入り口のウエイトレスの人に、「れいこです。れいこー(冷コー)1つお願いします」って言ったんやて。

そんでおばあちゃんもな、負けずに自分の名前言うて、

「とめです、とめ1つお願いします」って言うたらしいわ・・。

 

もうね、お腹の皮がよじれるとはこのことでしょうか。

「フフッ・・」という微かな笑いがいつしか、「アッハッハッハッ・・・」「ウヒッヒッヒッヒッ・・・」

大爆笑に次ぐ大爆笑!

私たち、まるで女学生(死語ですね)のように、「はぁ・・、お腹が痛いわ・・・」と涙を流して笑い転げたのでありました。

 

どうしてそんなに可笑しいのでしょう?

笑いに理屈などないし、分析などナンセンスなのかも知れませんが、フト私たちにとってこの話しがなぜそれほど可笑しいのか、考えてみたくなりました。

まず、Aさんの話しを聞いて、農業に従事するとめさんの人物像が、瞬時に浮かんできました。年の頃、60歳代でしょうか。

顔には深い皺。きっと、とめさんの働いた手は、節くれだって大きいはず。

街の映画館に一人赴いたとめさんは、とっておきのオシャレをし、そして緊張して列に並んでいたでしょう。

いよいよ券が買える順番に近づいたとめさん。全身ダンボにして、前の高校生一挙手一投足を凝視していたに違いありません。

そして、「高校生」という言葉を聞いて、自分も何か言わなければと思った瞬間、「農業!」という言葉が。

前の学生さんが「高校生」ならば自分は「農業」

この落差が笑いのツボに嵌ったのかも知れません。

そして、農業という職業に誇りをもち、何と、潔く、そして堂々としているとめさん。

「とめさんっていいな、好きだな」そんな温かな気持ちが、ほのぼのとした笑いに変わっていったような気がします。

喫茶店のくだりでも、真面目で誠実すぎるとめさん。

そして、「れいコ」(れい子)から「とめ」への落差の大きさが笑いを産んだような気がします。

 

私たちの笑いは、登場人物の人間像に対する理解と共感と、そして異なる事象の落差、

この二つによって想起されたような気がします。

 

最近のお笑いに惹かれないのは

そんなことをぼんやり考えていたら、最近、「お笑いタレント」と言われる方の芸にほとんど惹かれなくなっている理由がわかったような気がしました。

惹かれないというよりも、観ているのが苦痛なことも。

それは、お笑いタレントさんご自身に対する共感が持てない、あるいは、そこで語られる「人」に理解と共感が持ちにくいことが一番の要因であるように思います。

もちろん世代のギャップもあるのかも知れません。

それでも、なかには、思わず「わかるわかる」と頷いた後で、「そう来たか!」と大爆笑に誘ってくれるタレントさんも。

人を丁寧に表現する、どんな人がどんなシチュエーションにいるのかが見えないと、置いてけぼりをくったようで、楽しめない・・。

そんなことを考えさせられた「映画館で農業一枚!」のお話しでした。

 

一口に笑いといっても、いろいろなパターンがあり、笑のツボも人それぞれ。

ただ、「笑い」は、人生を楽しむ上では欠かせない大切な要素。

これからも、「人の感情の機微を理解したうえでの、ほのぼのとした上質な笑い」と数多く出会いたいと思っています。

 

 

 

目を通していただきありがとうございました。

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