還暦からの再起動

お料理レシピ、時々、遠距離介護や病気との付き合いなども。人生の下りを楽しむ還暦女子の日常です。

老人を演じられる俳優が減り、老人が承認されない社会になった

私は、特別演劇好きでも映画好きでもありません。

そんな私でも、是枝監督による「万引き家族」が先日のカンヌ国際映画祭パルムドール賞に輝いたニュースには、心から拍手を送りました。

是枝監督の作品といえば、樹木希林さん。

圧倒的な存在感、独特の空気感を醸し出す彼女の演技には、「これぞ俳優魂」といったものを感じます。

 

その彼女が、インタビューでこんなことを話していました。

thepage.jp

以下、引用です。

 

「近代劇の監督はいつも絶望していると思う。山田洋次監督が以前、タレント名鑑を見て『あきらめ表』だと言っているのを覚えています。そういう思いをさせているのは私たち俳優。いま、いろいろな監督が現代を舞台に『こういうものが撮りたい』という表現に挑んでいるのに、役者の層が追いついていかない」と現状を嘆く。

 続けて「人数はいるのですが、みな同じで個性がない。私がテレビで見ていても、会ったことがある人でも区別がつかなかったりする。舞台挨拶などでも、狭い場所でみんなヘアメイクとスタイリスト連れて同じようなことをしている。そういう風なことをして、人間が描けるのかなと思うんです。役者として、人物を演じるというのはとにかく、普通の生活をしなければいけないと思うんですよ」と持論を展開する。

 

このくだりで、大きく頷いてしまいました。
特に、樹木希林さんのように、市井の「おばちゃん」、「おばあちゃん」を演じられる女優さんが本当に少ないですね。
70代、80代になってもバッチリメイク。
美魔女上がりの「元は綺麗だったんだろうなぁ」という感じの方は、たくさんおられます。
でも、そうではなく、生活感を纏い、年を重ねた人間の強さも弱さも、狡さもおかしみも、切なさも賢さも、醜さもすべて含めてしっかり演じられる女優さん。
以前は、寅さんでお馴染みだった三崎千恵子さんや、蚊取り線香のCMでよくおみかけした園佳也子さん、さらに古くなると、北林谷栄さんなど、何人かの方が浮かんできますが、皆さんすでに亡くなられ、今は樹木希林さん以外にはどうも浮かんできません。
 
樹木希林さんは、今回の「万引き家族」で、入れ歯を外し、髪をボサボサにし、気味の悪い老女を体現したそうです。
人間が年をとると崩れていくという現実を、身をもって経験している立場から、表現したいというお気持ちがあったそうです。
これぞまさに「女優魂」。
表現者としてのプロフェッショナリズムが、人の心を揺さぶるのだと思います。
 
「女優さんも、男優さんも、「老人」をうまく演じられる人がいなくなっちゃったねぇ」
そんな問いかけに、夫は、「大滝秀治さん、好きだったけどな。そこにいるだけで存在感があったよなぁ」と。
そして、あの人も、あの人も、亡くなったなぁと話しつつ、「でも、だいたい、昔のような「老人」って、今は本当に少なくなっているんじゃない?みんな若いもん」と。
 
そう言われれば、いくつになっても肌の手入れは怠らず、髪も染めて服装も華やかな色目のものを選ばれる方が多くなってきました。
「老女」ではなく、皆さん「シニアレディー」。
寿命の延びとともに、ある意味で、今はなかなか「老人」になることが許されない社会なのかも知れません。
より若くあることが尊ばれ、老いることが自他ともに認められない社会。
いくつになっても美魔女上がりのような女優さんしかいないと感じるのは、そんな社会の変化を表しているのかも知れません。
 
 超高齢社会、それは、「人が老いること」を当たり前のように承認し合う社会ではなく、とことん遠ざける努力によって成り立つ社会。
生活感あふれる老人の姿など、どうやら特別な映画の世界以外では、今や関心を示されなくなっているようです。
 
 
 
 

目を通していただきありがとうございました。

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