長いお付き合いの末に訪れる曖昧な別れの辛さ:理髪店の店主の場合
昨日、1か月半ぶりに夫が床屋さんで散髪をしてきました。
そう、「床屋さん」という言い方がぴったり似合うようなちょいとレトロな店構え。
移住してからここ5年ほど、ずっとお世話になっています。
その夫が、「いや~、Aさん、突然のことで驚きましたねぇ」と店主に告げると、とても驚いた様子で、「えっ!」と。
そして、「今年になって一度も来られていないので、気になっていたんですが、亡くなられたんですか?」と。
どうやらAさんの訃報をご存知ないようでした。
Aさんは、70代半ばの男性。
わたしたちより5年ほど前に、ご夫婦でこの地に移住して来られた先輩です。
あまりご近所付き合いを好まれず、寡黙なAさんですが、夫は偶然にも理髪店でご一緒したことが2~3度あったそうです。
そこで何気なく、亡くなられたAさんのことを話題にしたところ、店主はそのことをご存知ありませんでした。
店主のご主人も、70代半ば。Aさんとは同世代。
少し気落ちされたようで、「同世代の人を見送るのは切ないですね・・」と話されたとのこと。
そして、昨年暮れに、最後にAさんがお店に来た時のことを、奥様も交えてあれこれ話し、「医者から余命わずかだと言われたなんて言ってたけど、その時はとっても元気だったから、まさかそんなことになるとは・・」と小さく溜息をつかれたそうです。
この理髪業というお仕事。
2代目の店主によれば、もう40年、50年と欠かさず通って来てくれるお客様がいらっしゃるのだそうです。
「一緒に歳をとっていってるっていう感じ」だそうで、頭を触れば、その形だけで目をつぶっていても、誰かわかるそうです。
体調の良し悪しやストレスのかかり具合なども全部わかっちゃう。
お客様さまのなかには、それほど近い関係の方もいらっしゃる。
そして、床屋さんの鏡の前では、いつになく饒舌になられる方も。
家のなかの出来事や仕事上のストレスなどの愚痴も、きっと随分聞いてこられたに違いありません。
40年、50年のお付き合いのなかで、「誰よりのあの人のことを知ってる」というお客様もたくさん。
けれど、お互いに歳を重ね、ここ数年で、パタッと突然顔を見せなくなるお客様がいらっしゃるそうです。
そして、しばらく経ってから、「あの方、亡くなられたよ」と他のお客様から伝え聞く。
「いや~、最近、そういうことが重なってねぇ。辛いですねぇ。だって、長い付き合いだもの。まぁ、床屋の宿命だからしょうがないですけどね」
店主はそう寂しそうに話したそうです。
年に6回としても10年で60回、20年で120回。「もうそろそろと思うころに、ふらりと現れる」そんな関係でつながっていた糸が、ある時、何の前触れもなく切れ、それを後から人伝てに聞く。
度重なる曖昧な別れ。
出会いがあれば別れがあるのは仕方のないことですね。
ただ、夫の話から、地域に密着した理髪店、その店主の悲しみ、やるせなさが伝わってきました。
目を通していただきありがとうございました。
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