リタイア後の男性のみだしなみに必要なのは、「誰かから大切にされている感」。
62歳になる夫。
リタイア後は、「ネクタイ」、「革靴」、「ベルト」、もちろんスーツとは無縁の生活を送っています。
身体を締め付けるようなものは、いっさい身に着けたくないとのこと。
極端に暑がりで、80キロを超す「立派なご体格」ゆえ、普段は、ウエストゴムの綿パンにTシャツといういでたちです。
オシャレにはほとんど関心がないようで、こだわりはただひとつ。
それは「清潔」であること。
洗濯にはなみなみならぬこだわりがあり、あれこれ洗剤や柔軟剤を試しては、加齢臭撲滅に心血を注いでいます。
そんな夫の綿パン事情。
長らくアイロンもかけずに、もっぱら洗いざらしの風合いを楽しんでいました。
庭仕事をして何度か着替える日もあり、「アイロンなんかかけたって、どうせすぐにシワシワになっちゃうんだから大丈夫!」というのが夫の弁。
「まぁ、本人がそういうのだから、いっか」と根っからズボラな私は、「本人の希望」という大義名分で、夫のズボンのアイロンかけは長らく遠ざかっていました。
かくして、ヨレヨレの綿パンとTシャツ、スニーカーという夫スタイルが完成。
スーパーでもどこでも、このヨレヨレスタイルででかけていました。
「リタイア後は、アイロンの線なんか気にしない、気にしない!」とばかりに。
ところがある時、知り合いの70歳代の男性Aさんとスーパーで久しぶりに再会。
ひどく疲れて、沈んだ様子でした。
聞けば、奥様が急に入院され、慣れない家事に四苦八苦しておられるとのこと。
生気漲る普段の様子とはかなりの落差。
ご挨拶をして見送る後ろ姿を見ながら、あることに気づきました。
「あっ!ズボンがいつもと違う・・」
その男性は、きっと奥様が毎日アイロンをかけておられたのでしょう。
センタープレスのピンときいた綿のパンツを颯爽とはいておられましたが、その日は、まるで、「昨日床に脱いだままのズボンに足をつっこんでそのまま穿いてきました」というような感じ。
おまけに、靴下まで中途半端に下がっていました。
「奥さんが入院して大変なんだなぁ。何だか、打ち捨てられて、軒先に棄てられた子猫みたいな感じだったなぁ」としみじみと夫。
「なんか、着るものにも気が回らない感じで、いつものAさんじゃなかったね」。
「いつもは、ピンとアイロンがきいたズボンを穿いてるのにね。ズボンひとつで、ずいぶんと印象が変わるものだねぇ」と私。
夫は、「ボクはいつもヨレヨレだけどなぁ」と言いつつ、少し考え込んでいるようでした。
それから私は、夫の綿パンにせっせとアイロンをかけています。
最初は、「いいよ、いいよ」と嫌がるかと思いきや、「アイロンのかかったズボンに足を入れるのは気持ち良い」のだそうです。
そして、たかがアイロンですが、かかっているのといないのでは大違い。
ずんぐりむっくりの夫も、少しはシャープに見えるからあら不思議。
「いいよ、いいよ、すごくいい!!」
夫は満更でもなさそうに、「そうかぁ・・」と。
今では、洗い上がったズボンを手に、「アイロンお願いしま~す!」と声をかけてくるようになりました。
リタイア後の男性の身だしなみ。
清潔であることは何より大切ですが、誰かが手をかけている、誰かから大切にされている感がないと、若いころのような内面から湧き上がるエネルギーがないだけに、一気にみすぼらしく見えてしまう気がします。
お一人暮らしの方は、自分で自分に手をかける。
自分でアイロンをかけて、自分で自分を大切にする。
そんなことも大切なのでしょうね。
今朝も、アイロンがけからスタート。
ただ、マメな夫ですから、早晩「自分でやった方がうまくできる」とばかりに、アイロン台の前に立ちそうな予感がしています。
目を通していただきありがとうございました。
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