退職して30年。気持ちを会社に置いたまま老いた父。娘は「今」を生きたいと思います。
「社友会」、ご存知でしょうか?
一言で言うと、会社のOB、OG会です。
父は、とある会社に40年弱勤務し、定年を迎えて30年が経とうとしています。
その父の年に一度の楽しみは、社友会の集まり。
社屋で、会社の卒業生たちが集い、懇親パーティーが開かれます。
その社友会に、今年も行きたいという父。
喜ばしいことではあるけれど、車椅子の父を連れていくのは大変。
数日前からの床屋さんに始まって、昔の古いスーツを引っ張り出し、ネクタイもお好みのものにコーディネート。
「茶色いネクタイがあっただろう。これじゃなくて・・・」と始まったら、もう大変!
徹底的に探さないことには納得しない父。
替えのリハビリパンツをもって出かけるまでに、付き添いはクタクタです。
その社友会。付き添った姉によれば、
昨年は、当時88歳の父が、最高齢だったとのこと。
「まぁ、〇〇さん、今年もお元気で来てくださったんですね」
「〇〇さんにお会いできて、今日、来た甲斐がありました」などと面映い言葉の数々をいただき、すっかり上機嫌の父。
サンドイッチやオードブル程度の軽食とビールなどアルコールもいただき、満面笑み。
昨年は、かつて定年間際だった父が所属していた部署に、新人で配属になった方とばったり再会。「いや~、せっちゃんもばあさんになったなあ・・。驚いたよ」などと、帰りに呟く父に、「いやいや、あなたの方こそ、正真正銘のじいさんですよ」と内心、姉はしみじみと思ったと話していました。
それにしても、退職して30年も経つというのに、未だ会社への「永遠の片思い」を貫く父。
現役のころは、我儘な父ゆえ、上司や部下との衝突は数知れず。
キリキリ、カリカリと神経を尖らせ、家で母親に辛く当たっていたものです。
現役時代の思い出は、それほどバラ色ではなく、思いだしても心痛む辛いエピソードもたくさんあっただろうに。
90歳となっては、すべてを忘れてしまい、「栄光の過去」だけが残っているようです。
忘れると言えば、話しかけてくれた方のほとんどの方のお名前も、すでに記憶のかなた。「誰だったかわすれちゃったよ」と呟く父ですが、それでも社友会には行きたがる。
自分を歓迎して、声をかけてくださる方。
世代交代をして、お顔も知らない「社長さん」が、「今、わが社があるのも、皆さまの現役世代の偉大なる貢献があればこそ。引き続き、どうぞご指導を」といった賛辞のスピーチ。
それらに包まれて、テンションアップの父親です。
そんな父親をみていると、何だか滑稽でもあり、少し切なくもあり。
父親の気持ちがわからないわけではないけれど、その場所に帰属していたのはもう30年も昔のこと。
退職してからの30年間、豊かな人間関係を築くチャンスはいくらでもあったでしょうに、父は、気持ちを会社に置いたまま。
積極的に人と関わるでもなく、今を生きることがないまま年を重ねてきたようで、本人のはしゃぎようとは裏腹に、周囲は気持ちが少し複雑です。
「会社人間」を地でいくような父。
そんな父をみながら、「私は過去に区切りをつけて、今を精一杯生きたい」と切に思います。
目を通していただきありがとうございました。
あしあとを残していただけると励みになります。