還暦からの再起動

お料理レシピ、時々、遠距離介護や病気との付き合いなども。人生の下りを楽しむ還暦女子の日常です。

生きるためにどうしても描かざるを得ない。そんな人の絵をみて、生きることと芸術を考えた。

「芸術ってなぁに?」

そう子供に問いかけられたら、何て応えればいいんだろう?

自分のなかで、「芸術って何だろう?」という漠然とした問いが、ずっと昔からありました。

 

さて、「アール・ビュレット」という芸術のジャンルをご存知でしょうか?

既存の美術や流行、教育などに左右されず、内なる衝動のままに表現した作品を、そう呼ぶのだとか。

「人知れず表現し続ける者たち」というタイトルに惹かれ、ETV特集で放映された番組を観ました。 

 

www.nhk-ondemand.jp

 

フランスで開催されたアール・ブリュットの作品展に出品した日本人は42人。

そのなかの3人の方に焦点を当てて番組は進みました。

 

なかでも一番印象的だったのは、30代後半の女性。

中学生の頃から、学校や家庭で生きにくさを感じておられたとのこと。

中学生の頃に描いた自画像からは、何か爆発しそうな怒りが感じとれます。

二十歳の頃、大量の薬をのみ、一命を取り止めたこともあったようです。

「悩みや辛さを感じないで生きていたことがない」という彼女。

今でも、ふいに街角で出会った音に気持ちをかき乱され、うずくまって時をやり過ごします。

 

そんな彼女の描く作品が映し出された時、最初はそれを注視することができませんでした。

大胆な色使いの構図のなかに、女性の生殖器、乳房、乳汁、胎児などを模したパーツが蠢くように配置された彼女の絵。

今まで観たどの絵よりも迫力があり、観てる自分が負けそうになる、そんな強烈な絵。

口ごもりながら朴訥と語り、街の音に怯えてうずくまるその人が描いたとは思えない、生命力に溢れた作品でした。

 

彼女は、「絵を描いていなかったら、自分がどうなっていたかわからない」、「今は、できれば、明日死なないほうがいいとは思う」と話していました。

「何ために描くのですか?」そんな問いかけに、長い沈黙の後で、「秘密です」と答えた彼女。

決して雄弁には語らない人。すべては作品のなかに凝縮されているということなのかも知れません。

 

芸術とは何か・・。

ずっと自分のなかに漠然とあったひとつの問い。

この番組を観て、「ああ、こういうのを芸術というんだろうな。こういうのを、自分は芸術と呼びたいな」

そんな気持ちになりました。

 

その人が自分であるために、自分として生き続けるために、その人の魂によって生み出される創造物。

魂によって生み出されたものは、観るものの魂に訴えかけてくるものがあることを実感しました。

 

「描き続けなければ死んでしまう」

そんななかから生まれた作品には、小手先の技術も手法も飛び越えた唯一無二の圧倒的な存在感、パワーがありました。

 

 

目を通していただきありがとうございました。

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