還暦からの再起動

お料理レシピ、時々、遠距離介護や病気との付き合いなども。人生の下りを楽しむ還暦女子の日常です。

「穏やかな最期、尊厳にあふれた理想の死なんてないのかも知れない」そう感じたあるドキュメンタリー

身体も心も弱っていった父親の元に通っていた時に、ふと目に止まったこちらのドキュメンタリー。

ここ数年間で、最もインパクトのある番組でした。

 

www.nhk-ondemand.jp

 

日本にまだホスピスという制度がなかった頃から先駆的に死にゆく患者さんのケアに当たり、数えきれないほどの方を見送ってきた「看取りのスペシャリスト」である医師。

その医師が余命わずかと宣告され、同じく僧侶でもあり医師でもある奥様のサポートを受けて旅立たれるまでの日々を密着取材したドキュメンタリーです。

取材陣は、経験豊かな看取りのスペシャリストが死にゆく過程には、「理想の死」があるだろうと見込んでの取材でしたが、現実はさにあらず。

 

 

襲ってくるさまざまな症状に狼狽し、混乱するご本人。

「痛い、痛い」と涙を流し、「眠らせて欲しい」と懇願。

奥様の名を呼び続け、身の置き所のない苦痛に悶え、苦しむ姿。

生気が失われ、魂ここにあらず。別人のようになっていく表情。

ご本人、奥様はもちろんのこと、カメラを回し続けた取材陣も、どれほど胸が締め付けられる思いであったことか。

これほど弱っていく姿をテレビ画面越しにながめることがご本人の尊厳を傷つけているようで、「これは、本当に、観ても良いものなのか・・」と思うほどでした。

 

たくさんのことを感じ、考えたこの番組。

 

一番の、最も率直な感想は・・。

 

これほど苦しまなければ死ねないのか・・。

終末期の症状コントロールって、実はこの程度のものなの?

 

幾千人の看取りに携わったスペシャリスト。

奥様も、また同様に、経験豊かな看取りのプロ。

そんなお二人であってもなお、あれほどの苦痛にのたうち回るとは・・。

驚き、そして怖くもなりました。

 

モルヒネなど、さまざまな薬が開発され、在宅でも穏やかに旅立てる。

がん患者の場合、ベッドで過ごすのは死の2週間ほど前。

それまでは、症状をコントロールしながら日常生活が送れる。

だから、がんで死ぬのは悪くない。

本やネット、講演会などで、そんな情報を得ていたものですから、本当に驚きました。

 

患者の個別性があることは承知のうえですが、

終末期には、どんな医療者としての経験や知識も役に立たないほどの、病状の圧倒的なパワーがあり、どうしても取り切れない痛みや苦痛が存在するのだということを見せつけられたような気がしました。

死ぬという大仕事、見送るという大仕事は、自分が思っているよりも、ずっと辛く厳しいことなのかも知れない。

「人はそんなに簡単に死なせてはもらえない」

「穏やかな最期、尊厳にあふれた理想の死なんて、ないのかも知れない」

なんといってもそんなことが、漠然とではありますが、強くきざまれたドキュメンタリーでした。

 

ご本人が亡くなってから来月で1年。

奥様のお気持ちを思うと、とても胸が痛みます。

死にゆく患者さんやそのご家族の治療やケアに全力を傾けてきたご夫婦。

人生とは、本当に皮肉で複雑なものです。

 

 

 

目を通していただきありがとうございました。

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