還暦からの再起動

お料理レシピ、時々、遠距離介護や病気との付き合いなども。人生の下りを楽しむ還暦女子の日常です。

DV夫と妻の最晩年、その絆の強さに驚く

根はとても優しい父ですが、若いころから感情のコントロールが苦手な人で、よく母親に当たっては、母を怒鳴りつけていました。

それに加えて、大の酒好き。

お酒を飲むと、毎晩、長々と独演会。父親の機嫌をそこねないよう、幼いころから私たち姉妹は、それにつき合わされていました。父親の機嫌が悪くなると、父が母に当たることがわかっていたからです。

その後、姉と私は、結婚して家を出ました。

一方母親は、「もう、別れたい」と何度も口にしながらも結局のところ、「お父さんを一人にしておけない、気が小さい人なのよ」と父親をかばいつつ、60数年共に暮らしてきました。

あの二人は「DV夫婦」なんだとハッキリ認識したのは、私たち姉妹が大人になり、それもずいぶんと経った時だったと思います。

 

晩年も続いていたDV

母親の老いが目立ちはじめ、家事もままならなくなったため、二人は、約3年前にサービス付き高齢者住宅 に入居しました。

父親も、次第に衰え、体調が悪い時には、失禁してしまうこともありました。

あるとき、お世話になっているケアマネさんから連絡がありました。

「お父さんが、このところ何回か失敗してみえて・・。そうすると、お母さんを大声で怒鳴るものだから、お母さんが気の毒で。私から、安心パンツを勧めてみてもいいでしょうか」とのことでした。

トイレが間に合わなかった父親は、すっかり気が動転して、

「おまえがそんなところにいるから、邪魔になって行けないんだよ!バカモノ!!」

そう、母親に怒鳴ってる父親の姿が目に浮かんできました。

 

うちの母さんは最高だよ

父親は常に怒鳴っているばかりではなく、その反面、とても母親に優しい一面がありました。

ネットで品物を買うことを覚えてからは、母親にブラウスや上着をせっせとプレゼント。年をとり、もう、どこへも出かけなくなった母親には不似合いなバックも、いくつ届いたことでしょう。

晩酌して気分が良くなると、「母さんには、ほんと感謝してるんだ。うちの母さんは最高だよ」とこの年代の男性があまり口にしないようなことを言い、母親が照れるのを嬉しそうに見つめていたりもしました。

 

入院直後の狼狽と初めて見せた涙

そんな典型的なDV夫婦の二人に、突然、母親が脳梗塞で倒れるという危機がやってきました。

面会謝絶が解けて、病室に母親を見舞った父親は、意識がはっきりしない母親の手を握り、「母さんや、母さんや」とずっと話しかけ、側を離れようとはしません。

ずっと母親の顔を見つめていた時に、父親の頬を伝う一筋のもの。

父親が初めて見せた涙でした。

その後も父親は、歩行がままならないというのに、杖を頼りに面会を続けました。

仕事を持っている姉ゆえ、毎日病院へ連れて行くこともできません。そんな時は、片道5000円の道のりをタクシーを使って出かけていきました。病院の玄関から病室まで、ヨチヨチと歩きながら。

そして、毎日何度も父親から電話がありました。

「母さんは、大丈夫だろうか」

それしか考えられないし、寝ても醒めて母親のことが頭から離れないようでした。

 

お父さんのこと、頼むよ。お父さんに悲しい思いさせないでね

母親は、脳梗塞の範囲が広く、意識もはっきりしない状態が続いていました。

「お母さん、わかる?」と問いかければ、「ああ、来てくれてありがとう」と応えてくれるものの、それ以外の会話は、トンチンカン。言葉も不明瞭で聞きとりにくい状態が続いていました。

ところが、父親のことを話題にすると、「一人でデイサービスに行くのはかわいそうだね・・」「着替えは、持っていってるの?」とまるでいつもの母親に戻ったかのよう。

そして姉と私の帰り際には決まって、

「お父さんのことお願いね。優しい人だからね、お父さんを悲しませるようなことはしないでね。」と涙ぐみながら懇願するように言うのです。

あれほどこっぴどく叱られ、怒鳴られ、攻撃され続けたというのに。

 

この夫婦、どうなってるの?

それにしても、この二人・・・。その絆の強さに驚きました。

父親も、それほど心配するのなら、母親が元気なときに、怒鳴ったりしなければいいのに。

母親も、あれほど嫌な思いをさせられ続けた父親なのに。

娘として、二人の複雑で屈折した関係性を、誰よりもわかっているつもりでも、やはり割り切れない気持ちも湧きあがってきました。

父親は、唯一自分がコントロールできる相手として母親に強烈に甘え続け、母親も、この人をわかってあげられるのは、許してあげられるのは自分だけだとお互いに依存し合って60年。

娘にとっては、いろいろな想いがあれど、二人の絆の強さには、驚き、圧倒されるばかりでした。 

 

 

 

 

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